Hope for the best and prepare for the worst

研究仮説の立て方

 それでは、研究の仮説はどのように立てたらよいでしょうか?研究のすすめ方の本などには、Yes/Noがはっきりわかる実験デザインを計画することができるような云々、とよく書いてあります。ですが、最初から白黒がはっきりつくような仮説を立てることは、あまりおすすめできません。というのは、もし、その作業仮説を否定する結果が得られた場合、何も手元に残らないからです。正確に言うと、その作業仮説は間違っていたという結果だけが残ります。一般に、否定的なデータは研究成果として成立しにくいので、なにか他の肯定的な結果が得られるような作業仮説を新たに考える必要があります。

オープン・クエスチョン OR クローズド・クエスチョン

 結果がYes/Noではっきり答えられるような問題設定をクローズド・クエスチョン(閉ざされた問い)と呼びます。一般的に、作業仮説または研究仮説をたてる際に、こちらのタイプの問題設定をすることが多い気がします。一方、結果が、Yes/Noでは判別できないような問題設定をオープン・クエスチョン(開かれた問い)と呼びます。研究にとりかかる際、まずはオープン・クエスチョンを設定することをおすすめします。例えば、オープン・クエスチョンには以下のようなものがあります。

・胎生期の大脳皮質原基で発現している遺伝子にはどのようなものがあるか
・母親マウスから離された新生仔マウスはどのような行動を示すか
・ヒトが二酸化炭素に暴露されると、どのような生理的変化がおこるか

 オープン・クエスチョンの特徴の一つは、記述型のアプローチであるということです。なにか未知の現象の解明に取り組む場合、その現象がどのようなものか定義できなければ解析の仕様がありません。記述型アプローチの場合、ややもするとカタログを作っているだけと揶揄されることもありますが、どのような材料があるかわからなければ、料理のしようもありません。オープン・クエスチョンのもう一つの特徴は「どんな結果もポジティブデータ」だということです。もちろん、信頼のおける方法で取得したデータであることが前提ですが。

オープン・クエスチョンからクローズド・クエスチョンへ

 では、クローズド・クエスチョンはできるだけ避けたほうがよいかというと、そういうことでもありません。個々の実験については、むしろクローズド・クエスチョンのフレームワークを使って、ポジティブ・ネガティブコントロールを設定して、Yes/Noで白黒つけられるようにデザインするべきです。オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョンは使い所が違います。前者で研究全体のフレームワークを決め、それを後者で個々の具体的な実験に落とし込むことが理想です。そうすれば、作業仮説を支持しない実験結果は、大きな枠組みのなかでは大事なポジティブデータとなります。

プランBはあるか?

 オープン・クエスチョンの「どんな結果もポジティブデータ」という特徴は、研究の際のセーフティネットにもなります。もし、あまりにも早くクローズド・クエスチョンを設定してしまい、期待される結果が得られなかった場合、どうしたらよいでしょうか?何ヶ月も準備して、実験して、解析した結果、作業仮説が否定されてしまったら?「そんなネガティブなことを考えていたら研究なんかできない」とか、「とにかく手を動かせば結果はあとからついてくる」というようなことを言う人もいますが、自分の人生がかかっている研究において、そんな精神論・根性論には頼りたくありません。

 最初の計画がうまく行かなかった場合のバックアップの計画をプランBと呼びます。オープン・クエスチョンはプランBを立てやすいフレームワークでもあります。研究を行うためには楽観的であることも大切ですが、「転ばぬ先の杖」の用心深さと、「転んでもただでは起きない」強かさをもって、研究にあたったほうがよいと思います。”Hope for the best and prepare for the worst.”という英語のことわざがあります。日本語では「備えあれば憂いなし」に相当しますが、英語のことわざには日本語のことわざにはない楽観的な印象があります。研究においては、”Hope the best results and prepare for the worst failures”の心構えで臨みたいものです。

”Hope like an optimist, Prepare like a pessimist, but Act like a realist.”という言い方もあります。研究者にとってはこちらのほうが適切かもしれません。

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